4

 当日のゼミは結局中止になった。
 携帯で呼び出した警察は意外に早くたどり着き、レスキュー隊が出動する騒ぎとなった。
 俺はすぐに、警察の事情聴取のため、パトカーで市内に逆戻り。携帯で千治に連絡を取ったところ、村の方でも情報が伝わっていて、大きな騒ぎになっているとの事だった。警察はもちろんのことカメラマンやレポーターが大挙して押し寄せ、課題どころではなかったそうな。
 事件の結果、30名余りが死亡。彼らはほぼ即死だったらしい。
 事故原因調査の結果はまだ出ていないが、少なくともバスの整備不良とかはないそうだ。聞き込みによると当日、運転手の調子が悪いということも無く、また天気も快晴のため主立った推測は初期に軒並み排除。
 残った予想は『運転手の目が逆光で眩んだ』、『車内で乗客による何らかのトラブルが起き運転を誤った』、『単なる不注意』など、何の面白みも無い推理がワイドショーの専門家たちによって語られた。警察の方はまだ進展が無いと表明している。
 これらがテレビで報道されている一部始終だ。真実が一欠けらも入っていない、薄っぺらな表向きの嘘。
 実のところ、警察はこの事件の全容を既に明らかにしているだろう。俺が証言した署でも、そんな空気が漂っていた。怒るでも戸惑うでもない、悲壮に満ちた、諦観した空気。
 彼らはただ、事件の真相が世間に与える影響を考えて、まだ公表出来ないだけなのだ。
 ――――ウィーン
 自宅のパソコンで、最後の印刷を終える。
 排出された紙には文章がびっしり印刷され、傍目では何の変哲もない資料に見えるだろう。いや実際、資料と呼んでも差し支えのない内容が書かれている。他と比べて特殊な所は、書かれている情報のほとんどが一般には出回らない、ネットのアンダーグラウンドで得られた非合法な代物であろうという事。

 その中には、今回のバス転落事故の真相が書かれている。

「――――くはあ」
 細分化された情報を選別し編纂しなおし、三日ほとんどを費やし完成させた事件レポート。体を伸ばし、笙は満足気な息を漏らした。
 こんなものを作るのは、仕事でも誰かに強要されたからでもない。無論、今回の事件を痛ましく思い、鎮魂の思いをこめて調べた結果でもない。そもそも、自分は今回の事件に対し、何の悲しみも得ていない。
 それに、ただの労働であるならば、自分はこれの出来に悦楽を感じたりはしない。
 『他者の死の編纂』。
 これが自分の唯一持つ、『趣味』だ。


 悪趣味と思われるかもしれないが、俺はこれに勝る娯楽を知らない。漫画もカラオケも買い食いもショッピングも、暇つぶしにこそなるが、俺を楽しいと思わせることはなかった。
 その結果、行き着いた物がこの趣味。
 お分かりだろうが、他者に話せるような趣味ではない。自分は話す事に抵抗がないが、だからこそ不文律などで自分を律し、不用意に自分がマイノリティであることを明かしてはならないのだ。
 表面では普通の学生姿を崩さない。裏では、大きな事件があれがネットサーフィンで情報をかき集め、必要とあらば現場まで赴く趣味の生活。さすがに北海道から沖縄まで、というわけには行かないが、最低限興味深い事件は現場まで足を運んだ。時には事故の痕跡が生々しく残る現場に遭遇したり、後始末がまだで危険がこちらにも降りかかったりと刺激溢れる体験もしたが、それも最近は驚嘆する心が磨耗してきた。
 その点で言えば、今回は久しぶりに驚いた。まさか事件の方からこっちにやってくるとは。
 これだから面白みの理由も分からぬ周りの娯楽と違い、この『趣味』はやめられないのだ。俗世への興味も失おうという物。
 ああ、もちろんこの『趣味』には、楽しいと思う理由もある。

 ――俺は他人に興味が持てない――

 引っ込み思案や、人見知りなどというものではない。なんと言おうか、他人がどうしようが何をしようが、関わりたいとも知りたいとも、理解しようとも思わない。
 生まれながらの異端なのだ。円満な人間関係を作る機能が、生まれ付き欠如している。
 少なくとも教育面では問題なかったはずだ。普通の家庭で普通に育って、ああいや、そんな奴が健全に育つはずがないのだが。とにかく小学生までは普通に育っていたはずだった。
 自分が異常だと感じたのは、中学生になってからだ。
 最初に軋み始めたのは、級友と話をした時のことだ。会話が続かず、気まずい空気を何度も作る。何を聞かれてもふーんで答え、決して聞き返すことはしなかった。ある特定の話題に対してではなく、趣味・勉強・昨日のテレビの話にまで。
 会話のキャッチボールは一方通行。いや、むしろ投げられたボールを取りもせず眺めていた感がある。
 だってそうだろう?興味のないものに付き合うのは苦痛だ。無意味に感じてしょうがない。
 …………まあ、少なくとも今の俺はそんな思いを抱いていない。当時の生き方が社会の中で通用しないことを思い知ったから。
 人は生の営みの中で、必ず他者と関わりを持たなければならない。当然の帰結だ。何しろ、他人を拒んだ事の末に待っていた物は、イジメという追放だった。
 学校という小社会の中で、異物は排除されるべき害悪である。生活を円満に営むには誰もが同じ歯車でなければならない。そうしなければ噛み合わないからだ。故に、かみ合わない歯車は無視を受けるか、積極的に排他される。
 俺の場合はその中間だった。中学に入ってからしばらく後、俺がクラス内で異物と認識されてから。
 普段は無視を決め込まれ、いざ関わらざるを得ない時は舌打ち、作業の妨害、悪口、あからさまな面倒ごとの押し付け、等等。そいつらは多分に俺をストレスの捌け口としてみていたと思う。異物は同時に生贄足り得るという事を、そこで思い知った。
 さすがにそんな生活を続けていれば精神も肉体も持たない。偽りでも表向きはフレンドリーに接しなくては、社会の歯車は回せない。
 心を入れ替え中学の後期で多少改善されたが、それでも自分が他者に興味を持てないことは相変わらずだった。いや、それがむしろ顕著になったと思う。
 形骸化した友達、生きるだけの生活、無為な社会。つまらない人生は次第に自分から生きる意味さえ失わせていき、心削り取られる毎日は消極的な自殺方法にさえ思えてきた。
 他者と同じ行為をただ漠然となぞる毎日。周りが笑えば笑い、怒れば怒り、質問をするであろう所では聞き返し、いかにも興味がありますと仮面を装う。
 もとより興味がないものに退屈が加わっただけ。そんな行為も慣れれば、どこまででも続けられる気分になる。自分の一生はこんな風に、無味乾燥な人付き合いしか出来ないのだろうなと諦観していた。
 その諦めに、色が着き始めたのは高校の始めだった。

 その日、俺は初めて、人の死を目にする。

 入学してから若干親しくなった友人が、首を吊って死んでいた。
 幸運だったことに、第一発見者は俺。おかげでまだ人目についていない、有りの侭の死体を拝むことが出来た。
 その様は凄惨で、目は飛び出て舌ははみ出しており、撒き散らされた糞尿の臭いが蝿を呼んで集られて。人の醜さが結集したような、おぞましい人の終わり。
 俺はその遺体を前にして、硬直した。
 頭が真っ白だったわけでも、畏怖したわけでもない。ただ今まで感じたことのない一つの感情が沸き起こり、それが何なのか分からず戸惑っていた。
 一分ほど後、その感情の正体に気づく。

 ――――ああ、俺は今、初めて、人に親しみを感じている。

 人に興味を持てる対象を、初めて見つけた瞬間だった。
 陶酔していた時間は数分間。それでも十分に満喫できた。
 その後、人を呼び、教師に驚かれ、警察が来て、事情聴取され、開放され、家に帰って、しばらくマスコミに煩わされ、いったいを騒然とさせ、やがて収束し、誰の話題にも上らなくなってから、ようやく自己分析が終わった。
 いったい自分は死体の何に、自らの興味を、共感を、親しみを持ったのか?
 自分が無意識に死を望み、その先例を見たから感化されたのなら、興味を持つ必要はない。
 或いは本当は彼の『特別』な友達になりたく、それが死の第一発見者と言うことで僅かながらも充足されたのなら、共感を得る必要はない。
 単に自分が日常に飽きて、非日常である『遺体』という物に強烈な好奇心を抱いたのなら、親しみを持つ必要はない。
 かつて悩みぬいたような、数々の思考による試行錯誤。
 ――ようやく出た回答は、俺が感じていた長年に渡る葛藤を解消した。

 どうやら自分は、人に興味が持てないわけじゃなく、人の『人生』と言う物にしか、興味が持てないらしい。

 人は生活する上で、数多の人間と出会い縁を持つ。そして相手と交流を持つ内、相手の事を知って親しくなっていくという過程を経ていく。それが健全な人の、友好の育み方だ。
 ただ自分は、それを煩わしい、余計な過程だと感じているらしい。
 おかしな話だ。本来その知り合って行くという過程は友情、親愛を育む過程でもあり、不可欠なものだ。一目会ってから互いに全てを知り尽くし、何の気兼ねもない関係を持つことなど、有り得ない。それは自分にも分かる。最初に、己の無関心を悩んだ末に出した結論でもある。その時は結果として、自分には根本的に、他者への興味、或いは親しくなると言う意識が欠如しているのだと結論付けた。だからこその、後年の諦観でもある。
 だが、他者の自殺現場を見て、その意識は間違いだったことに気づいた。
 自分に他者への興味や親しくなると言う意識がないのだとしたら、遺体に興味を持つことも、親しみを持つ筈もない。自分が抱くものは、そういう物ではなかった。
 ただ単に知識欲。
 それだけだった。
 物語を読むように、他者の人生を知っていく。自分にはそういう形でしか、他者との関係を楽しめない。
 そんな嗜好なので、どうやら他者と友好を育む関係は御法度のようだ。
 読む物語に、自分が登場するはずもない。つまりそういうことだ。数々の漫画、小説、絵本、御伽噺。それら物語の中で自分が登場する機会など先ずない。もし登場したとしたら、興醒めもいいところ。自分が書く作品ならいい、或いは伝記などでもいいだろう。だが自分が読む物語は、あくまで他者が主人公の作品に他ならない。そんな作品に脇役などで登場して物語の純度を下げるなど、煩わしいものでしかない。
 だから俺は、終わってしまった物語にしか興味が持てない。いや、興味を持ってはいけない。
 終わらない物語に関わることは、物語の純度を下げる。それでは自分が楽しめない。
 だから他者との交流に興味が持てない。終わってしまい純度が下げられない物語に興味が持てる。
 俺は、終わってしまった人生にしか、興味が持てない。


 ――――自己分析が終わった後の行動は、迅速だった。
 即座にこの前自殺したクラスメイトのことを、調べて調べて調べ抜いた。
 …………内容はどこにでもありふれた、ワイドショーでも使い古された悲劇だった。
 数年前、両親が離婚。離婚の原因ともなった暴力的な父方に引き取られたそいつは、母の代わりに家庭内暴力に怯える毎日を過ごすことになり、高校に入った時には既に体中痣だらけだったそうだ。運の悪いことに、彼は高校の不良グループにも目をつけられ、日常茶飯事にカツアゲを行われるようになったらしい。
「――――ハハッ」
 脅されたのは一週間ほどの事らしいが、DVで心身共に疲れ切った時期に酷い目に合わされ、限界を迎えたらしい。教室内の蛍光灯器具に縄をくぐらせ、自殺。
 内容は酷く平凡だったが、俺にとっては調べていく時間全てが至福の時だった。体が熱くなり、口には笑みが零れ、キーボードを叩く手は震えた。今までに味わったことのない充実感。欠けていた物が埋まっていくかのような感覚。
 俺はその趣味にのめり込んで行った。
「――――ハハハハハハッ!」
 もうかつての自分に戻ることはないだろう。
 何しろ、世界はこんなに『色』に満ち溢れている。
 地と臓物の赤黒さ。未熟で未完成な若々しい青。善意から出た警戒信号である黄。それを知らずか無視をして、罠にかかった結末は黒。
 もうかつての自分に戻ることはない。
 世界は『色』に満ち溢れている。
「――――ハハハハハハハハハハハハッ!!」


 先日、図らずも巻き込まれてしまった、バス転落事故。その真相を調べていくうち、乗客達には、ある共通点があることに気づいた。
 バスに乗った人間は、皆大きな問題を抱えていた者ばかりであったことに。
 会社が倒産し多額の負債を背負ったおじいさん。
 躁鬱病を発症し、三回の治療と再発を繰り返し、疲れ切ってしまった青年。
 夫が死去し、女手一つで子供を育てる気力も無くなってしまった婦人。
 友人を誤って殺してしまい、自首する勇気もなく、当て所もなく彷徨っていた精悍な男性。
 廃線に伴いリストラされ、生甲斐だった運転手を辞めさせられ絶望してしまった初老。
 他の乗客リストの人達も、一般人には思いもよらぬ経歴の持ち主ばかりだった。
 ――そこまで来れば、後は比較的簡単に予想が付く。
 行き先はアンダーグラウンドに近い、自殺サイト群。そこでは心を病んだ人達の掲示板を始めとした、自殺方法の紹介、自殺用の毒薬販売、集団自殺の呼びかけ、などを茶飯事に行うサイトのリンク集が網の目のように繋がっている。
 こういう集まりは比較的警察に摘発されやすいが、これらはそのつど網の目を張り替えるようにサイト変更、リンク変更を行い逃れてきた古参の集団である。
 近頃年間自殺者三十万人を超えたこの地獄のような世界で、ネガティヴな祭りを行っているサイトは見つけやすい。何しろ氾濫しているから警察も対処しきれないのが実情だ。ただでさえ今のこの世はここ十年で、凶悪犯罪が加速度的に増加している。ネットの世界まで手が回らないだろう。
 いくつか調べていく内、目当てのサイトは粗方絞られた。何しろこっちの界隈でも、話題はあのバス転落事故で持ちきりだ。それは三十人余りが死んだ凄惨な事故という訳だけではない。その事故が、このサイト群と多大な関わりを持つからに他ならない。

 もう気づいたとは思うが、この事故はこのサイトによって集まった、同志による『集団自殺』である。

 掲示板のログを探るうち、真相が見えてきた。
 事の始まりはあの、バスの運転手かららしい。
 生涯仕事一筋で、他の生き方を知らない男がある日突然、解雇通告を受け取る。つまりはリストラだ。採算の取れない路線をいつまでも保持していく訳にはいかず、しかも最近はすっかり衰退したバス事業。一本バスを無くす事により、人員も削減しようと言う訳だ。
 子供の頃からの憧れで、その夢が叶った後でも運転手一本。趣味も副業も妻も作らず、文字通り人生であった運転手を辞めさせられた男に、この先の生は無意味に等しかった。
 ただ、自殺しようにも、この世に未練は多すぎた。せめて、そうせめて、最期は辺境の路線に追いやられ寂れてしまったこのバスに、乗客を沢山乗せて死出の旅に行きたいと、思ってしまったが事の発端。
 その男の未練が、自殺サイトの存在を知った事、ネットカフェで同志を呼んだ事、華々しく散ろうとその呼びかけに多数応じた事、それら事象により結実してしまったのが、あの事故の真相である。
 ある者は廃業と多額の負債による影響で余生を生きる希望も意欲も失って、死を選ぶ。
 ある者は病気の弊害で親しい友人達からも拒絶されそれが決定打となって、死を選ぶ。
 ある者は未亡人になったショックから気力を失い何も知らせず娘を伴って、死を選ぶ。
 ある者は友人の後を追うためにネットカフェで知った集団自殺に志願し、死を選ぶ。
 彼らはそういう物語で、死んでいった。


 …………たっぷりと、三十分ほど後味を堪能しただろうか。
 ここ一年で、これは一番の長編だった。
 少々不安はあった。
 その気が無かったとはいえ、自分はあの事故に少なからず関わってしまった身の上である。その事実がこの短編集とも言える物語の純度を下げてはいないか?己の無意識は脇役として関わった事を、許容できるだろうか?そんなことをつらつらと考え、物語を楽しめはしないだろうかと、一抹の不安を覚えた。
 ただそれも杞憂だったようだ。
 いわばあのバスは黄泉路のバス。既に死者を運ぶ、終わった棺桶だ。それらに関わったところで、物語の純度は一摘みたりとも下げられはしない。
 …………下げられ、または後悔する時は、それこそ彼らの自殺を思い留まらせてしまった時ぐらいだろうな。
「…………クックッ。なんとも酷い男だな、俺は」
 自分の邪悪ともいえる考えに、少し苦笑する。自分の嗜好は、絶対に一般受けしないだろうな、と。
 自分の考えた事に罪悪感は無い。どちらにせよ自分に自殺は止められなかった。そう思うのは傲慢でさえあるだろう。
 またそう考えること事態に罪は無い。自分がどうしようもない異端者である自覚はあるが、同時に罪は実行に移さなければ罰せられないことも良く知っている。
 在ることは罪ではないのだ。

 カタカタカタッと、携帯のバイブレーションが音を立てた。物語を堪能した至福の時を邪魔された事に、少々苛立ちを感じる。なので少々乱暴に机から掴み取り、電話に出た第一声は不機嫌な物にならざるを得なかった。
「もしもし?誰?」
『やっ。どうにも不機嫌な声だね?ちゃんとカルシウム取ってる?』
 電話の主は、塩野千治だった。相手が相手なだけに、少し機嫌を取り戻す。
「何だ、お前か。どうしたんだ?大学の方で何かあったか?」
『いやね、ゼミの連絡で、あの課題が村を変えて再試されるみたい』
「うぇ、面倒な話だな。あんな事故があった後なんだから、免除されてもいいだろうに」
『いやあ、それは無いでしょ。あの人頑固だし』
 そんな他愛も無い会話を続ける事は、今では苦痛でなくなった。まあ相手が彼、千治の場合は楽しささえ感じる。
 ……趣味を見つけてから六年。俺は初めて、伝記を知った。
 塩野千治。彼は間違いなく、主人公の中でも偉人と呼ばれる人間になる。自分の直感がそう告げている。
 ほかの理由も細々とはあるが、そのどれもが決定的に自分の考えを表す物ではない。あえて言い表すのならば、それが『直感』という言葉になるだけの事。
「お前はなんとも思わないのか?一度村まで行ったんだぞ。それを別の場所でもう一度って、面倒くささで死ねるね」
「なんでなんで?楽しそうじゃん」
「…………お前はやっぱり、大物だわ」
 俺は苦笑した。


 …………さて。
 通話の終わった携帯を置いて一人、物思いに耽る。
 ――彼に対しては、一つ、抑えがたい欲求がある。
 出来るなら、そう、出来るなら。
 彼の物語の終焉は、せめて、自分の手で行いたいと。
 何にも抑えがたい、彼だけへの殺人欲求。
 当分その時期は来ないだろうが、もし来たら、
 何の抑制も躊躇も後悔も無く、

 彼を**す。

 パソコンのモニターを消す。瞬く間に部屋には無明の闇。
 自分の心のように、真っ黒な。

<< >>